<開発理念>
自分専用の足場を自由自在に組み、移動特性を持って立体機動が可能であること
<移動>
虫というカテゴリに分類される生物の中には、非常に特異かつ先鋭的な能力を持つものが多い。
例えば、トンボ。
その空中捕獲能力を比較すれば、生物であろうと機体であろうとぶっちぎりで敵はいない。
例えば、スズメバチ。
その羽は、超高度な姿勢制御と滞空力を両立する。
そして例えば、蜘蛛。
その長い足はありとあらゆる地形を走破する。
基本的に移動とは安定状態→不安定状態→安定状態という状態変化の繰り返しである。
二足歩行であれば両足という2点で体を支えている状態から片足を上げ、1点で支えている状態を経て、また2点で支える状態に戻る。
その点、8本の肢を駆使する蜘蛛は様々な面で突出して優れている。
A.安定性
移動中でも、常に4点以上で体を支える蜘蛛は、非常に安定性に優れる。
バランスを崩したり、倒れたりするということがない。
B.悪路走破性
肢を乗せる場所さえ確保できるのであれば、どのような地形でも走破する。
凹凸が激しかろうと、接地可能面積が小さかろうとお構いなしである。
蜘蛛型舞踏体は、蜘蛛の構造上の特性を参考とし、不安定な足場でも安全性と立体機動・運搬を両立することがが可能な足回りを得ることとなった。
<糸>
蜘蛛は、「糸いぼ」と呼ばれる器官から多種類の糸を放出し、家作り、捕縛、卵を守るなど使い分ける。
この糸は人間の髪の毛の1/10ほどの太さでありながら、強度は同じ太さの鋼鉄の5倍。伸縮性はナイロンの2倍を超え、400度の熱に耐え、紫外線にも強く、吸水性に富むが故に帯電性も低いなど、繊維として圧倒的な機能を誇る。
さすがにここまでの能力はないものの、蜘蛛型舞踏体にも「糸」を放出する器官が搭載されている。この糸は、実際の蜘蛛が吐き出す糸を参考に開発され、本体からの制御により液体化が可能である。
必要があれば、蜘蛛型舞踏体は、この糸を利用して「足場」を製作する事が可能である。
例えば建築現場において、糸を使って「蜘蛛の巣」のような足場を組み、効率的な移動を行うことがある。
邪魔になった部分は液体化して排除することにより、さらに効率的な足場を組む事が可能である。
このように、自分専用の足場を自由自在に組み、前述の移動特性を持って立体機動を行う。
<頭部>
蜘蛛型舞踏体の頭部に、コアの他にも複数のシステムが搭載されている。
人間がそうであるように情報収集のための機能が集中しており、他の部位と比べると多機能となっている。
・プレートアンテナ
人間で言うところの額に当たる部分に搭載された板状アンテナ及び通信機器。
これを使用することで蜘蛛型舞踏体は、ビル壁面のメンテナンス時の応援要請を迅速に行うことができる。
・複合センサーユニット
頭部の左右に搭載されたセンサーユニット。
人間で言うところの耳に当たる装備であり、外部からの音源を収集するマイクが搭載されている。
・複眼型センサーアイ
人間で言うところの目に当たるセンサーであり、蜘蛛型には大小合わせて四つのセンサーアイがある。
有効半径は人間の視力とほぼ同じで、望遠機能や透過機能などの特殊な機能は持ち合わせていない。
・外部スピーカー
ワイヤーアンカーユニットの左右に搭載された牙型のスピーカー。人間で言う口に当たる部分であり、搭載場所も口に近い。
・ワイヤーアンカーユニット
複眼型センサーアイ下部及び尾部に搭載されたワイヤーアンカー射出装置。
<手足>
胴体も含め、立体機動に特化した構造を持つ部位。
名目上は頭部左右にある二つが腕で、残りの八つが足にあたり、壁面を上り下りするためのものなので、先端には登坂用の爪が仕込まれている。
対して、腕の方は作業用なので、精密な動作ができるようになってる。FEG猫が整備などで使用している専用工具を参考に作られた。
反面、両者に共通する問題点として、四肢はそのパワーや精密性に反して可動部が多いため損耗が激しいという欠点が挙げられる。
外装の軽量化を行うことで負担を減らしてはいるものの、小まめな定期検査と関節部の修理・交換は欠かせない。
<ボディ>
見た目から受ける印象と比べ、蜘蛛型舞踏体のボディは頑丈ではない。
これは、軽快な上下移動を実現するには、総重量が軽量であることが重要である。足が8本あるとはいえ、重量化により可動部の負担が増えないよう、外装は極力重量を落とす事を重点に開発が行われ、引っ掻き傷には強いものの、外装として頑丈と言えない外装が開発された。
頑丈と言えないといっても、日常生活やビルのメンテナンスを行うには、問題の無い強度であり、足の可動部に対しての負担も許容範囲内であった。
この外装を採用したことにより、巷で騒がれた蜘蛛型舞踏体の軍事利用を不可能にすることとなったが、蜘蛛型舞踏体の着用者からは喜ばれる結果となった。