小カトー・多岐川2&多岐川佑華
快晴の空にて
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コックピットから降り、ヘルメットを取った。
取ってみたら思っている以上に頭は湿気ていたらしく、冬の終わりの空気が気持ちいい。
「お疲れ」
整備士が一人声をかけてきた。
ポン、と水筒とタオルを投げてきた。
それを受け取る。
ゴクゴクと喉を鳴らして水を飲むと、吸い取られるように水筒の中身が消えていく。
「どうだ? 調子は」
「まあまあ」
にやりと笑った。
かなりいい時も悪い時も、何故か「まあまあ」と言う言い回しをする癖があった。
にやりと笑いながら言っているのだから、きっと前者なのだろう。
「それはよかった。それはそうと、お前のお嬢さん、随分難儀な機体じゃねえか。本当に、これで記録取る気かい?」
整備士が言った。
速過ぎて身体が持たない、機体が壊れやすい、それは戦闘機に速さだけを求めるとよくある話である。
もっとも、それは他の人間が乗った場合の話である。
この機体は、ただ一人が乗る事しか考えてはいない。
こんな無茶苦茶な設計をする人間は、早々はいない。
「この機体じゃないと駄目なんだよ。この機体は……」
そう言って、機体を見上げた。
蒼い優雅なフォルムに、女性の名前を付けられているにも関わらず、いざ空を飛べば猛禽類と化す機体を。
全てを捨ててただ一人のパイロットを乗せる事を考えた機体。そんな危ういバランスで作られた戦闘機。それが、ユーカである。
「気流確認は?」
「大丈夫。何度も確認したから。今日でよかったよ。多分明日以降だったら荒れてただろうし」
「何かあったかい?」
「何が?」
「お前さんが戦闘機大好きなのは知っているし、戦闘機乗りなら一度は記録を狙うだろうが、お前さん、えらくあのお嬢さんで取る事と、今月中に取る事にこだわっていたから」
「ああ。だって、今日じゃないと駄目なんだよ」
「何故だい?」
「だって今日は………」