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第176回 蜘蛛型舞踏体誕生秘話

リポーター:
「本日は、この度FEGにおいて開発された種族アイドレス、蜘蛛型舞踏体の最初の着用者でもあり、蜘蛛型舞踏体の相談役の役割を務めながら、FEG政庁城でお仕事をされているダイパスさんを番組にお迎えしています。
最近開発されたアイドレスであり、どのような種族アイドレスであるかの情報が少ない蜘蛛型舞踏体について、お話をさせていただきます。ダイパスさん、よろしくお願いします」

ダイパス:
「よろしくお願いします」

リポーター:
「では、最初にFEG政庁城においてダイパスさんがされているお仕事についてお教えいただけますか?」

ダイパス:
「主に教育関係の職務に携わっています。それと、少々ですが、国政に係わる職務も拝命しています」

リポーター:
「差支えなければ、もう少し詳しくお仕事の内容を教えていただけますか?」

ダイパス:
「今は、保育園の活動支援ですね。補助金を出したり、保育園が適正な運営を行っているか監査を行ったりしています」

リポーター:
「なるほど。保育園と言えば、少し前までは、西国人とFEG猫の方々が保育士の大半を占めていましたが、ここ最近、蜘蛛型舞踏体の保育士が増えてきていますね。」

ダイパス:
「そうです。今でも外壁メンテナンス等に従事している者も多くいますが、保育士になる者や、私のように事務仕事を行う者が出始めています。」

リポーター:
「就く仕事が変化した理由は、思い当たりますか?」

ダイパス:
「蜘蛛型舞踏体というアイドレスの定義がされたことが大きいですね。アイドレス定義前の我々は、少々ゆがみのある存在でした」

リポーター:
「ゆがみのある存在、ですか?」

ダイパス:
「もしくは不安定な存在だったとも言えます。蜘蛛型舞踏体が、FEGにおいて生まれた理由は、ご存知ですか?」

リポーター:
「元々は、“夢の剣事件”が発端となったと聞いています」

ダイパス:
「その通りです。あの事件の折、新型舞踏体として開発されていた“N8タイプ”が、蜘蛛型舞踏体の原点と言えるものです。つまり、最初は舞踏体の一形態だったわけですね。」

リポーター:
「ええ。そのあたりの事情は存じています」

ダイパス:
「N8タイプは、生身の部分を完全に排除したタイプでした。脳の働きなど完全エミュレートしたタイプであったため、夢の剣事件で亡くなられた方の代替ボディに最適だった。ですが、世界から見れば大きな“ゆがみ”を生むことになったのです」

リポーター:
「“ゆがみ”ですか?」

ダイパス:
「ネットワークに意識がつながったことにより、人としての個体、つまり個人の意識を保てなくなってしまったのです。
N8タイプは、脳などを完全エミュレートしたとはいえ、意識はデータの集合体と言えます。ネットワークにつながった時点で、他者とのデータ融合が起こってしまい、総体としての意識に個人の意識が統合され個人と全体の区別が無くなったのです」

リポーター:
「失礼な言い方になりますが、人がネットワークにつながりデータ化してしまった。つまり、AIのようになってしまったと?」

ダイパス:
「高度なAIであったことは間違いありません。でなければ、他者とのデータ融合などできませんからね。
夢の剣事件の後に出現した黒い塊が消えた後、N8タイプを含む3500万人もの舞踏体が機能停止しました。脳を完全エミュレートしたタイプの中でも、主に夢の剣事件により亡くなられた方が代替ボディとしていた舞踏体の機能が停止しています。他者とのデータ融合により、個人の意識が保てなくなってしまった方々です。」

リポーター:
「高度なAIであったため、機能停止に陥ったように聞こえますが?」

ダイパス:
「この件の説明については、うまく説明できるか自信が無いのですが、つまりは“魂”が伴っていなかった舞踏体が停止したと思ってください」

リポーター:
「魂ですか。なんとも概念的な話ですね」

ダイパス:
「人の形質と言ったほうが分かりやすいかもしれません。総体としての意識に個人の意識が統合された結果、他人との境界が曖昧になってしまいました。
現在は、禁止されていますが、当時は、感情や記憶を編集・消去もできました。そういった状態になってしまった人々が、もう一度一からやり直すため、生まれ変わるための通過儀礼として機能停止したのだと考えてください。」

リポーター:
「しかし、貴方は機能停止にならなかった」

ダイパス:
「ええ。当時の私は、FEG政庁城外壁の掃除などのメンテナンス作業の仕事をしていたのですが、黒い塊が消えたとき気を失いました。
そして、次に気が付いた時には、政庁城の片隅でひっくり返った私を、政庁の上層部の方や猫士の方々が心配そうに囲んでいたのです。面喰いましたよ。皆さん、口々に自分の事が分かるか、私の事は分かるかと言われましたので。そして、同時にネットワークに常にあった総体としての意識、自分以外の他者の意識の密度が希薄になっていることに気付き茫然としました」

リポーター:
「機能が停止した3500万人の喪失が原因ですね」

ダイパス:
「そうです。しかし、完全に消えたわけではありませんでした。脳を完全エミュレートしたということは、意識を完全データ化したと同義です。ですので、当時はネットワークに散在していた意識データを復元すれば、復活するのではないかと考えられたのです。
もっとも、完全に失敗に終わりましたが」

リポーター:
「一度、機能停止、死亡した人は蘇らないということですね」

ダイパス:
「私は、蘇らせてはならないと思っています。夢の剣事件の後に黒い塊が出現し国内を騒がせました。FEGに限って言えば、一度死亡した人々が、N8タイプなどの舞踏体という代替ボディを得て、蘇ったことが原因であると考えられています」

リポーター:
「なるほど。黒い塊が、ダイパスさんが言われる“ゆがみ”が顕現したものであったと」

ダイパス:
「そのとおり。幸い、是空藩王を筆頭とし対策に当たったため、それほど時間を掛けずに黒い塊を消滅させることに成功しました。しかし、黒い塊が消滅した後、新しい疑問が持ち上がりました」

リポーター:
「機能停止した舞踏体と、貴方のように機能停止しなかった方の違いですね」

ダイパス:
「それも疑問の一つでした。そして、もう一点の疑問というのが、先ほど、意識データを復元することにより、復活させようとした試みは、完全に失敗に終わったと言いました。
しかし、意識データつまり、人格の復活はできませんでしたが、普通のAIとして動作させることはできたのです。なぜ、データを元通りに復元したのに、普通のAIとしてしか動作しないのかという疑問です。」

リポーター:
「普通のAIですか?」

ダイパス:
「そう、人をサポートするためのAIという意味ですね」

リポーター:
「なるほど。興味深いお話です。では、先に停止する舞踏体と停止しなかった舞踏体がいた件について、詳しくお話を聞かせていただけますか?」

ダイパス:
「分かりました。私を含め、機能停止しなかった舞踏体は、他にも何人かいましたが、年齢や性別、職業などすべてバラバラでした。
私たち機能停止しなかった者は、政庁城の研究室に集められ色々な調査をされましたが、主だった共通点が見つからない。2週間経って唯一分かった共通点と言えは、みなN8タイプの舞踏体、今で言う蜘蛛型舞踏体の原型を使用していたということだけです」

リポーター:
「こういっては、なんですが、見ればわかる共通点ですね」

ダイパス:
「そう。つまりは、何も分からなかった。機能停止しなかったという現象として、確かに私たちがあるのに、その理屈が分からない。調査に当たっていた技術者の方々は、相当ストレスを溜めていたはずです。
そこで、私がそんな技術者の一人を励まそうと、“兄弟、そんなに悩んでもなるようにしかならないさ。気楽に行こうぜ!。ハッハッハー!”と話しかけたのです。」

リポーター:
「ハッハッハー!ですか……」

ダイパス:
「いや、お恥ずかしい。私も当時は、若かったですからね。今だったら、もう少しマシな励まし方をしたと思います。
それはともあれ、その技術者は、励まそうとしたのが私だと分かると、ものすごく変な顔をしたのですね。まるで、珍獣を見たような顔でした」

リポーター:
「なぜ、そのような顔を?」

ダイパス:
「私も技術者の方々も自覚がなかったのですが、機能停止した舞踏体と決定的な差がそこにあったのです。
つまり、機能停止した舞踏体の方々は、言葉による人とのコミュニケーションをとるのが極端に少なくなっていました。ネットワークにつながり他人との境界が曖昧になってしまったということは、ネットワークにつながっている人、N8タイプなどの舞踏体同士なら言葉によるコミュニケーションは不要。ネットワークでイメージのやり取りをしたほうが、言葉を使ったコミュニケーションと比べ、早いし正確にイメージが伝わりますからね。
そのため、言葉によるコミュニケーションが必要な西国人などと会話するときにも、極端に口数が少なくなり、効率的な会話しかしなくなっていたのです」

リポーター:
「間違っても、ハッハッハーとは言わないということですね」

ダイパス:
「で、できれば、聞き流していただきたかったのですが、まあ、言われていることは合っています。私は、ストレスで暗くなる研究室の場を和ませようと、ジョークを飛ばしていたのですが、研究者の方には、機能停止したN8タイプだったら、こんなつまらないジョークを言うやつはいないとか、失礼なことも言われましたよ」

リポーター:
「ジョーク、つまらなかったのですね」

ダイパス:
「お聞かせしましょうか?」

リポーター:
「い、いえ結構です」

ダイパス:
「そうですか。では、話を戻しますが、私と技術者の会話をきっかけに調査が一気に進むこととなりました。私以外の機能停止しなかった個体も、口数が多かったり、読書が好きだったりと、各個体それぞれ違った特徴、すなわち個性を持っていたことが判明したのです」

リポーター:
「お聞きする限り、結構分かりやすい特徴だと思いますが」

ダイパス:
「まったくその通りです。技術者の方々には、“彼らも人であるのだから、人として接するように”という政庁上層部からの厳命が出ていたのです。
非人道的な検査や、解剖して構造解析することは、厳禁だったのです。」

リポーター:
「それは、当然の事ですよね」

ダイパス:
「そのため、お互い普通の人として接していたのですが、私たちに個性があることに気付けなかったのです。
今でこそ、笑い話になりますが、調査の初めは、我々も技術者の方々も緊張していましたから、口数も少なくなっていました。日数が経つにつれ場の雰囲気にも慣れてきましたから、私もだんだん口数が増えていったのですが、技術者の方々とごく自然な会話をしていましたから、差異に気付くのが遅れたのだと思います。
その後、膨大な映像資料やFEG国民からの証言を検討した結果、機能停止しなかったのは、個性を持っていたN8タイプであったと結論付けられました」

リポーター:
「総体としての意識に個人の意識が統合された舞踏体、N8タイプの中でも個性的なN8タイプは機能停止しなかったということですね」

ダイパス:
「そうなります。ちなみに、個人の意識が統合されるという件は、当時の人型舞踏体も同様の問題をはらんでいました。もちろん、この問題に対応するため、是空藩王や政庁上層部による政策の発表や国民との話し合いなどが行われ、一定以上の成果を上げていました。
しかし、考えてみてください。生身の部分が残っている舞踏体と、脳も含め人を完全エミュレート、つまりは、データ化したN8タイプならば、どちらの意識が統合されやすいと思われますか?」

リポーター:
「N8タイプでしょうね」

ダイパス:
「そう、生身の人の記憶が記録されている部分、脳も突き詰めれば電気信号の集合体であると言えますが、物理的に意識が固定化できる生身がある分、意識の統合は起こりにくい。
しかし、N8タイプは、脳を完全エミュレートしたと言っても、記憶が記録されている部分と、実際に活動するボディを分けることが可能でした。記憶の外部記憶媒体化ですね。総体に意識が統合されるのは、記憶の外部記憶媒体化が著しく高くなると起こりやすくなるといっても過言ではないでしょう」

リポーター:
「つまり、記憶と意識があるべき体とが乖離すると意識の統合が起きやすいと?。行き過ぎた便利さを追求した結果、個人として意識が保てなくなってしまうということでしょうか?」

ダイパス:
「分かりやすいまとめ方ですね。その通りだと思います。夢の剣事件でN8タイプなどの舞踏体になった方は、緊急避難的な側面もあり、便利さを追求した結果と一概には言えませんが、それでも、人として当然の欲求である死にたくないという欲求を追求した結果、夢の剣事件とそれに続く黒い塊事件で起こった舞踏体の機能停止に繋がってしまったのでしょう。
個人としての意識、人の形質、魂、いろいろな呼び方があるかと思いますが、夢の剣事件、黒い塊事件がきっかけとなり、人としての定義から離れないように、FEGのみならず、NW全体で規制やガイドラインが次々と策定されました」

リポーター:
「FEGでは、是空藩王や、華族が作った政策などがありますね。代表的なものだと
人の形質問題についてメタルボディ対策があります」

ダイパス:
「記憶継承や自己増殖に関しては、早い時期から規制が掛かっていました。まあ、当然ですね。自分を簡単にコピーできて、しかも、増えることができるなんて、それは、もう人ではない、何か別の存在です。私たちは、メンタル的な部分は西国人の方とあまり変わりがありません。一般常識や物の考え方も同様に西国人の方とそれほど変わらないのです」

リポーター:
「なるほど。蜘蛛型舞踏体という種として考えると、コピーをして増えることはありえないと?」

ダイパス:
「自分のコピーを作って増えたとしても多様性という観点から見れば、種の弱体化を加速していると言えます。生物が長い歴史で獲得してきた形質は、遺伝子の多様性による変異の蓄積によるものです。種が一種類の遺伝子で構成されていれば、簡単に滅んでしまいますよ」

リポーター:
「子どもを赤ん坊の時から育てるより、自身や他の成人した誰かをコピーしたほうが楽だし効率的だから蜘蛛型舞踏体は、コピーで人口を増やせば良いという意見が今でもあることはご存知ですか?」

ダイパス:
「私からすれば、何をバカなこと言っているのだと思います。
先ほども言いましたが、私たちは、メンタルな部分においては、西国人などと何ら変わるところはありません。
子どもは育てるものであって、コピーするものではない。私も、二児の親ですが、コピーして子どもを増やせばよいと言われるとは、ひどい侮辱をされた気分です。そのようなことを言われるとは、私たちの事を全く理解していないのでしょうね。そういった方に対しては、私たちの事をもっと知っていただきたいものです」

リポーター:
「申し訳ありません。思慮に欠ける発言でした」

ダイパス:
「ああ、いや、興奮して申し訳ない。別に貴方の意見というわけではないでしょう。謝罪には及びませんよ」

リポーター:
「ありがとうございます」

ダイパス:
「まあ、そういった意見があったとしても、コピーして増えるというのは、不可能なのですけどね。」

リポーター:
「不可能なのですか?」

ダイパス:
「ええ。ここで、先ほど話しました、意識データの復元により、機能停止した方々を復活させようとした試みが、完全に失敗した話に繋がるのです」

リポーター:
「ああ、なるほど。意識データの復元イコール自身のコピーと同義となるわけですね。」

ダイパス:
「機能停止した方々の復活に関する試みは、黒い塊が消滅した直後に行われています。何せ3500万人という膨大な数の舞踏体が機能停止したのですから、当然の反応であったともいえます。最終的に、あるがままの結果を受け止め、次につなげていこうと落ち着いたわけですが」

リポーター:
「ええ。是空藩王や藩国上層部の方々が苦渋の決断をされたとお聞きしています」

ダイパス:
「データの復元では、人格データの復元はできなかったが、普通のAIとして動作したというお話をしました。
しかし、普通のAIと言っても当時の技術レベルから考えると、かなり機能的に劣ったAIとなりました。なにせ、データリンクも対話による意思疎通もできないといった代物でしたから」

リポーター:
「なぜそのような事になってしまったのでしょうか?」

ダイパス:
「どれだけ形を真似しても、データを復元やコピーしただけでは、魂が宿らなかったということなのでしょうね。
人や動物においても、同一のデータ、遺伝子を持っていたとしても、まったく同じ個体にはならない理由と、根源は同じです。
長年積み重ねてきた経験や感情の積み重ねにより、人格つまり個性は形成されます。復元やコピーにより見かけ上は同じに見えても、人として根源的な部分でもある個性をコピーすることはできないということです。
私たちは、一度、総体としての意識に取り込まれ、個性を失いました。しかし、時間をかけ、経験などを再度積み重ねたことにより、再び個性を手に入れることができたのです」

リポーター:
「なるほど。人と呼べる人格や個性をコピーすることは何者にもできないということですね」

ダイパス:
「一つの教訓となりました。しかし、データ復元による復活やコピーが不可能であったという事実は、別の問題を浮き彫りにすることになりました。種の存続にかかわる大きな問題です」

リポーター:
「と言いますと?」

ダイパス:
「私たちのメンタルは、西国人の方と何ら変わることは無いというお話を先ほどしました。種としての本能の一つともいえる、次世代に対して生命や技術の継承、子どもをどのようにすれば作れるか、私たちには、まったく見当がつかなかったのです。」

リポーター:
「確かに、子どもを作ることは、困難であることは想像できます」

ダイパス:
「実際に困難の連続だったと聞いています。 私は、“子どもを作れるようにしてください”とFEG政庁で陳情を行っただけですが、陳情を受けたほうは、大変だったと思います。
陳情を行ったのが、ちょうどサイボーグ・クローン問題が起きる少し前の事だったのですが、この問題との兼ね合いもあり、技術の確立、政策の摺り合わせなど多くの問題を解決していただきました。」

リポーター:
「あの騒ぎですか。良く覚えています。大法院の協力により法案が修正され、最終的に藩王と摂政が責任を取って減給されるという形で政治上の決着が付きました」

ダイパス:
「責任を取られたお二人には申し訳ありませんが、あの騒ぎがあったため蜘蛛型舞踏体は、子どもを作ることができるようになったのです。大変感謝しています。
私は、技術者でも専門家でもないので、当時苦労をした訳でないのですが、もともと政庁城で働いていたこともあり、政治的な面では藩国上層部の方々、技術的な面では技術者の方々が相当苦労していたという噂を聞いています。実は、この時の陳情が縁で国政に係わる仕事に携わることになったのですよ。」

リポーター:
「世の中分からないものですね」

ダイパス:
「全くです。そして、この騒ぎが収拾しつつある頃に、蜘蛛型舞踏体のアイドレスを定義することを決定づける事件が起きます」

リポーター:
「事件ですか?」

ダイパス:
「今でこそ蜘蛛型舞踏体を使用している私たちも少し前までは、人アイドレスである西国人を着用していました。蜘蛛型舞踏体のアイドレスが定義される前でしたので当然ですね。 人は二本の手と二本の足をもっているだけですが、蜘蛛型ボディは、足だけで八本あります。それに、高層ビルなどで移動に使用する“糸”を使うこともできます」

リポーター:
「ええ。それが蜘蛛型舞踏体の特徴ですから」

ダイパス:
「そう、“蜘蛛型舞踏体”の特徴なのです。決して“西国人”の特徴ではない。この差異があったことにより色々な弊害が出てきたのです」

リポーター:
「どのような弊害でしょうか?」

ダイパス:
「一番大きかったのは、蜘蛛型ボディを使用していた私たちの常識や思考が、西国人を着ている方々とずれてしまったことです。そうですね、例えば、横断歩道の渡り方一つにしても、西国人の一般常識では、横断歩道の信号が青になり自動車が止まってから渡りますが、常識がずれていたころの私たちは、信号に関係なく自動車を避けながら渡ってしまえば良いといった考え方になっていたのです」

リポーター:
「それは、危ないですね」

ダイパス:
「そうなのです。命の危険もある行為だったのですが、その頃は、その行為を危ないことであるという認識をしていなかったのです。
幸い、私たちの周りには、ずれを指摘してくれる友人が多くおり、ずれてしまった常識や思考を対話により修正することが可能でした。
しかし、同じようなことが度々おこるようになり、原因を調べていくうちに、蜘蛛型のボディを使用しているのに、西国人のアイドレスを着ていることが原因で、常識・思考がずれてしまっているのではないかという事が分かってきたのです」

リポーター:
「手足が八本ある蜘蛛型のボディに、手足が二本ずつしかない西国人のアイドレスを無理やり着ていた。他に選択肢がなかったとはいえ、そういった“ゆがみ”が原因だったと言う事でしょうか?」

ダイパス:
「ええ。手足の数が違うということに大きな影響を受けたのです」

リポーター:
「人は、服装と言った外見の変化に、精神が大きな影響を受けると聞いたことがあります」

ダイパス:
「西国人のアイドレスを着用していたため、蜘蛛型ボディの外見から精神が影響を受けてしまった。その結果、常識・思考の大きなずれが出ることとなったと言う事でしょうね」

リポーター:
「この事件が蜘蛛型舞踏体のアイドレス開発の契機になったのですね?」

ダイパス:
「そうです。まあ、話の流れから言えば、すぐに分かりますよね。
この事件を重要視した藩国上層部では、人アイドレスに代わる種族アイドレス開発の検討が開始されました。蜘蛛型のボディに合わせた蜘蛛型舞踏体というアイドレスです。」

リポーター:
「現在、ダイパスさんが着用されているアイドレスですね」

ダイパス:
「蜘蛛型舞踏体のアイドレスを着用するようになってから一般常識や思考が西国人と大きくずれることは無くなりました。
蜘蛛型のボディ用に定義されたアイドレスを着用したおかげで、安定した普通の生活を送ることができるようになったのです。一般常識が周囲の住民の方とずれていると日常生活を送るのに問題が出てきますからね」

リポーター:
「ええ。ゴミの出し方一つとっても諍いになることがありますからね」

ダイパス:
「生活基盤が安定してくると、今まで目を向けていなかったところに目を向ける余裕が出てきたのです。それで、保育士をはじめとする色々な職業に就くものが増え始めたのでしょう。」

リポーター:
「それが、保育士になる方が増え始めた理由ですね。しかし、なぜ保育士になられる方が多いのでしょうか?」

ダイパス:
「単純に、私たち蜘蛛型舞踏体は、子どもたちの相手をするのが好きなのですよ。
子どもというのは、可能性の塊ですから。その子が持つ可能性を少しでも拡げることができる仕事にやりがいを感じて就いているのです」

リポーター:
「なるほど。蜘蛛型舞踏体の保育士が増えているのは、そういう理由があったのですね。さて、ダイパスさんには、蜘蛛型舞踏体の成り立ちから、様々なお話をお聞かせいただきましたが、残念ながら番組の終了時間が迫ってきました。」

ダイパス:
「そうですか。分かりやすい説明を心掛けたつもりですが、一部分かりにくい説明があったことをお詫びします。この番組が、私たち蜘蛛型舞踏体という種族を理解する一助になってくれれば幸いです」

リポーター:
「本日は、長時間ありがとうございました」

ダイパス:
「ありがとうございました。お疲れ様でした」

蜘蛛型舞踏体開発概略 ロングインタビュー SS 後記

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