練習風景

宇宙は遠く

 おじいは、一人射出便利舎の屋上に体操座りで落ち込んでいた。投擲時は常におじいと共にある整備員も遠ざけての見事な落ち込みっぷりである。
 約30分前に、SOUらが新たに開発した投擲往復対応輸送機の試作機を使い、宇宙への投擲テストを行ったのだが、想定高度の半分ほどしか投げることができず、テストは失敗。試作機は、FEG沖合の海に着水し、回収に向かった回収班が戻るのは、あと2時間かかると連絡が来ていた。
  初投を失敗したおじいに、SOUや開発スタッフの面々は、まだテストですから、とか成功するまで何度でも回収しますとか暖かい言葉をかけていたのだが、それすら耳に入らずおじいの頭を回っていたのは1つの言葉である。
 “今のままでは、絶対に宇宙に届かない”
 もちろん、開発スタッフの誰かが言ったことではない。彼らは、どちらかというと試作機をあそこまで飛ばしたおじいを尊敬のまなざしで見ており、「やはり、おじいに任せて正解だった」と思っていた。絶対に届かないと思っているのは、おじいその人である。
 これまで、数々の投擲をこなしているおじいは、自分の力を正確に把握していた。
 今の投擲では、投擲フォームや試作機を投げるタイミング、どれも完ぺきに行った。
 それでも、想定高度の半分ほどしか投げれなかった。
 ということは、今の自分には、宇宙まで投擲することができない?
 ここまで、考えが進んだおじいは、1つの決意を胸に秘めふらりと立ち上がった。
 2時間後、試作機を回収した回収班が目にしたのは


“山籠りして自分の技術を磨き直します。1ヶ月後に戻ります。探さないでください。

                                     おじい”

“山籠りして自分の技術を磨き直します。1ヶ月後に戻ります。探さないでください。

                                     おじい”
 と書かれた置き手紙であった。

おじいの努力

 FEG政庁城には、FEGで山籠りってどういうことよ!? とか、おじいの大きさで山籠りしたら山が生き物が迷惑するとか数々の突っ込みが入ったり入らなかったりしたが、FEGの首脳陣は事態を静観することとし、行方を捜索しない事を決定した。
 もとより、おじいに対し全幅の信頼を置いており、おじいが山籠りが必要と判断したのなら、それが必要な措置であるとの判断したのである。
 首脳陣がおじいの行方を探さない代わりに行ったのは、宇宙投擲専用プラットフォームの整備指示である。
 テスト投擲を行ったのは、通常の投擲を行っている高層ビルの屋上であった。高層ビル街の真ん中での投擲で、おじいが無意識のうちに力を押さえている可能性を考慮し、全力を以って投擲ができる環境を整え、山籠りから戻ったおじいを迎えるためであった。
 そして、宇宙投擲専用プラットフォームが完成し、おじいが帰ってくると書置きしていた日がやってきた。是空王と主だったFEG首脳陣は宇宙投擲専用プラットフォームに集合し、おじいの帰還を待っていた。
 

 きっとおじいもどこかで頑張っているから、俺達も頑張るよ
 

 10時ちょうど、ついにおじいが宇宙投擲専用プラットフォームに姿を現した。是空王の前まで歩いてくると膝をつき頭を下げた。
「いきなり居なくなり申し訳ありません。ただ今戻りました」
「うん。用意はできているから」
 代表して是空王が答えると、おじいはおもむろに立ち上がり試作機に近づいていった。
 そして、試作機を掴むと投擲準備を始めた。

そして宇宙へ

「こちらFEG所属T−STS。現在、FEG上空約100kmで待機中」
 射出便利舎とFEG首脳陣は、今回の投擲のためにT−STSを打ち上げ宇宙からの観測準備を整えていた。
 初投の際は、宇宙での観測環境まで整えていなかったのだが、この日はわざわざ費用をかけT−STSによる観測環境を整えている。今回の投擲が成功するとの確信があったのだ。
「試作機到着予定まで、あと2分30秒」
「なあ、今回は成功すると思うか?」
 T−STSを所定の軌道で固定させる以外の仕事が無いパイロットが、同乗してきた観測チームに無駄口を飛ばす。
「当然ですよ。おじいが山籠りまでしてきたんですからね」
「まあ、そうなんだが」
「それより心配なのは、射出便利舎の他のサイボーグが真似できるかですね」
「・・・こんな真似、おじい以外できねえよ。ほら」
 そう言うパイロットが指さす先には、外装をパージし宇宙移動形態となった試作機が浮かんでいた。

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