小カトー・多岐川2&多岐川佑華
贈り物
その日、寝込んでいた。
布団を被って、うなされている。
お腹も空かないし、疲れてもいないけれど、既にカーテンの向こうが赤くなっている事に気が付いた。
薬、飲まないと……。
よろよろと布団から出て、台所で水を飲む。
何か胃に入れようとレトルトのお粥を温め、温めている時間を潰そうとテレビを付け……。
『いえー。佑華みたー?』
目が点になった。
「……何事?」
第一声がそれだった。
付けたテレビはちょうど夕方のニュース番組を流していて、今日一日のニュースをしている所だった。
『FEG所属の小カトー・多岐川さんが、帝國の蒼龍の持つ記録を破り、世界最速記録を見事更新しました』
アナウンサーがそう読み上げ、映像はユーカが空を飛ぶ所に切り替わった。
他に言葉が出てこず、ただ口を開けてぽかんとしている所で、電話が鳴り始めた。
えっ? 何? 何?
とるるる
とるるるる
とるるる………
反射的に布団の脇に置いていた灰色のウィッグを被り、電話に出た。
「もしもし」
『よっす』
テレビの向こう側から声がした。
『とったよ。世界速度記録』
電話をくれただけで、それだけで、嬉しかった。
既にお粥も薬の事も、頭の中から飛んでいた。
……と、一つだけ思い出した事があった。
「あ、そうだ」
『ん?』
「私この間誕生日だったんだ」
『知ってるよ』
あれ?
誕生日の日付、教えたっけか。
首を傾げていた。
『合わせたろ。俺』
「え?」
その言葉で固まった。
基本的に鈍い性格をしているが、反射的に意味は分かった。
「もしかして世界記録取ったの……」
『電話切る。じゃな』
電話はそのまま切れた。
切れた後、へなへなとそのまま床に座り込んだ。
そして、そのまま泣き出した。
意味のない悲しい涙ではない。
意味のある温かい涙であった。